お金が無い地獄

夜中にふと目が覚めた。

静かな夜。

広いリビングにある大きな窓の外には夜景と星が広がる。

窓から外を眺めるのが好きだ。

日中は気持ちのいい日差しが入る。

夜は星と夜景。

タワーマンションの高層階は住み心地がいい。

大きな窓の外の眺めながらシャンパンを飲む。

気に入ったグラスで飲むシャンパンはいい。

先日はウェッジウッド。

気分によってグラスを変える。

グラスやカップが好きだ。

食器棚とは別に専用の棚がある。

グラス棚から気分に合わせて選ぶ。

選ぶ瞬間がいい。

お気に入りのグラスでお気に入りのシャンパンを飲む。

大きな窓の外を眺めながら飲むシャンパンはいい。

高い所が好きなのか気分が晴れる。

勝ち組の景色だ。

シングルマザーだがタワーマンションの高層階に住んでいる。

まさかこんな場所に住めるなんて。

考えた事も無かった。

夢が現実になった。

シングルマザーだがお金は十分ある。

何も心配する必要はない。

子供の教育費も十分ある。

私の老後も両親への貯金も。

通帳を眺めるとほっとする。

お金が無かった昔。

引き落としが出来ずにお金をかき集めていた。

公共料金の支払いが出来なかった。

口座にはいつもお金が無かった。

財布にもお金が無い。

お金が無い時は固定費を支払い子供の物を支払い。

自分の事は後回し。

私は食べなくてもいい。

子供さえ食べる事が出来れば無事に生活出来れば。

私なんてどうでもいい。

綺麗な洋服は着なくてもいい。

子供にだけは不自由をさせたくない。

泣いて願った昔。

こんな泥沼の生活から抜け出したいと。

ボロボロになった自分。

まだ赤ちゃんだった子供を抱いて毎日泣いていた。

お金が無い母親でごめんね。

学歴も資格も無くてごめんね。

子供はまだ赤ちゃんだがこれから成長したらどうなるのか。

お金が無いせいで子供に悲しい思いをさせたくない。

その一心だった。

私の生活を変えたのは子供への思い。

自分だけだったら何でも我慢できる。

でも子供にはお金のせいで我慢させたくない。

シングルマザーだからと思って欲しくない。

お金に余裕がある今。

ふと昔を思い出す。

広いリビングにある大きな窓の外を眺めてシャンパンを飲みながらふと。

お金が無かったからこそお金のありがたみがわかる。

だからこそお金に執着している。

お金が無い地獄を知っているから。

だから今を幸せと感じる。

お金が無い地獄は経験した人にしかわからない。

絶望と恐怖。

焦りと自分への怒り。

どうしようもない気持ちをどこにぶつけていいかわからないとまどい。

もうあの頃の自分はいない。

シャンパンが飲める生活に感謝。